【徒然草 現代語訳】第三十三段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

今の内裏作り出だされて、有職の人々に見せられけるに、いづくも難なしとて、すでに遷幸の日ちかくなりけるに、玄輝門院御覧じて、閑院殿のくしがたの穴は、まろく、ふちもなくてぞありしと仰せられける、いみじかりけり。
是はえふの入りて、木にてふちをしたりければ、あやまりにて、なほされにけり。

翻訳

今の二条富小路の内裏をご造営なさった際、宮中の故実に通じている方々にお見せになったところ、非の打ち所がないとのことで、すでにお上がお遷りになられる日も近付いた折、玄輝門院がご覧になられ、閑院殿の櫛形の穴は円く、縁なぞはありませんでしたよ、と仰られたのは、お見事であった。
新しい内裏のそれには葉の意匠が入り、木の縁が付けられていた、これは誤りとのことで、作り直されたのであった。

註釈

○玄輝門院
洞院愔子(とういんいんし)。後深草天皇の后にして伏見天皇の生母。

○洞院殿
元藤原冬嗣邸。高倉天皇から後深草天皇までの間の里内裏。

○くしがたの穴
清涼殿と殿上との壁にあけられた半円形の窓。


宮中のゴシップを書きとめたどうということもない段に読めますが、ここは兼好法師の聖女好みを感じて欲しいところ。
身分の高い女人が、知識莫迦の男たちの鼻っ柱を完膚なきまでにへし折った、一種のヒロインものとして読んでいただきたい段です。
日頃から溜まっていた俗物博士たちへの溜飲も、女院の鉄槌のお蔭でさぞ下がったことでしょう。

追記

今でもことあるごとに、有識者の方々のご意見を参考にして、とか、専門家の分析を踏まえた上で、とか云う人がいますが、そーゆーちゃんちゃら可笑しい茶番劇は鎌倉時代からの伝統なんですね。


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