【徒然草 現代語訳】第九段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

女は髪のめでたからむこそ、人の目たつべかめれ。人のほど、心ばへなどは、ものいひたるけはひにこそ、物越しにも知らるれ。ことにふれて、うちあるさまにも人の心をまどはし、すべて女の、うちとけたるいも寝ず、身ををしとも思ひたらず、たふべくもあらぬわざにもよくたへしのぶは、ただ色を思ふがゆゑなり。

まことに、愛著の道、その根深く、源遠し。六塵の楽欲多しといへども、皆厭離しつべし。その中に、ただかのまどひのひとつやめ難きのみぞ、老いたるも若きも、智あるも愚かなるも、かはる所なしと見ゆる。

されば、女の髪すぢをよれる綱には、大象もよくつながれ、女のはけるあしだにて作れる笛には、秋の鹿必ず寄るとぞいひ伝へ侍る。みづから戒めて、恐るべくつつしむべきはこのまなどひなり。

翻訳

女の髪の美しいのが、人の気を引くのは異論あるまい。人柄や気立てのよしあしなどは、ひと言ふた言を耳にしただけで、几帳越しにも察しがつく。事あるごとに、些細な物腰が男の心を惑わし乱し、そもそも女は熟睡とは無縁で、その身を惜しむということを知らず、とうてい我慢がならないことにも辛抱して堪え忍ぶ、これはひとえに好いた男を想うがゆえである。

まったくもって、愛着の情の根はどこまでも深く遠い。眼、耳、鼻、舌、身、意から発する六塵と呼ばれる欲望は、実のところすべて厭い遠ざけることが出来なくもないものだ。ただし、たったひとつだけ竈の火の如く止めがたいものがある、それすなわち愛着心が老いも若きも、智者も愚者も巻き込んでいっしょくたにしてしまうのだな。

そんなワケだから、女の髪をよりあわせた綱には大象さえも繋がれ、女の履き物で作った笛の音には、秋の牡鹿が吸い寄せられるように必ず寄ってくる、と云い伝えられているのでございますよ。自戒し、恐れ慎むべきは、この情欲の惑いである。

註釈

女の髪すじを云々のたとえは、「大威徳陀羅尼経」に見えます。


いよいよ本領発揮、兼好が女嫌いの本性(馬脚)をあらわした段になります。
逆ツンデレと申しますか、嫌うというより、怖がってるんですね、要するに。
いひ伝え侍る、の「侍る」に注目!
この屈折したへりくだりが、嫌味兼好の真骨頂です。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です