
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
斎王の野宮におはしますありさまこそ、やさしくおもしろきことの限りとは覚えしか。経、仏などいみて、なかご、染紙などいふなるもをかし。
すべて神の社こそ、すてがたくなまめかしきものなれや。物ふりたる森のけしきもただならぬに、玉垣しわたして、榊に木綿かけたるなど、いみじからぬかは。ことにをかしきは、伊勢、賀茂、春日、平野、住吉、三輪、貴布祢、吉田、大原野、松尾、梅宮。
翻訳
斎王が御潔斎のために野宮にお籠りになっておられるご様子こそは、心うち震える清麗なるものの中でも最上のものであろう。「経」、「仏」といった仏の教えに所縁のある言葉を忌んで、「なかご」、「染め紙」と云い替えているらしいが、そこがまたたまらなく奥ゆかしい。
おしなべて神の社ほど、いっさいないがしろに出来ない優美極まるものが他にあろうか。途方もない時を経た森の佇まいからしてただ事ではないのに、玉垣をめぐらし、幣帛として榊に木綿が掛けられているのを目にするだに、これ以上清純なものがこの世にあろうかと溜め息がこぼれる。就中、伊勢、賀茂、春日、平野、住吉、三輪、貴布祢、吉田、大原野、松尾、梅宮の趣は比類がない。
註釈
○野宮
天皇即位に際して伊勢神宮に遣わされる未婚の内親王もしくは女王は、伊勢に向かう前に嵯峨野にある野々宮神社に籠り精進潔斎するのがならわし。
○なかご
お厨子におさめる仏像の婉曲な云い廻し。
○木綿
読みは「ゆふ」。
女嫌いで通っている兼好法師も、斎王だけは別格だったようです。
頭でっかちの男にありがちの聖女シャーマン趣味ですね。