
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
柳筥に据うるものは、たてざま横様、物によるべきにや。巻物などはたてざまにおきて、木のあはいより紙ひねりを通して、ゆひつく。硯もたてざまに置きたる、筆ころばず、よしと、三條右大臣殿仰せられき。
勘解由小路の家の能書の人々は、かりにもたてざまにおかるることなし。必ず縦様に据ゑられ侍りき。
翻訳
柳箱に物をしまう際に、横にしまうのか縦にしまうのかは、物により違うものなのだろうか。「巻物類は縦に置き、柳の枝と枝の隙間から紙撚を通して結わい付ける。硯もまた縦に置く、筆が転ばず具合がいい」と三条右大臣殿が仰せられた。
時に勘解由小路家の能書家の方々は、間違っても硯を縦に置かれることはない。決まって横に据えられておられました。
註釈
○柳筥
やないばこ。柳を編んで脚をつけた収納具。
○三條右大臣
三条公茂、もしくは實重のどちらか。
○勘解由小路家
かでのこうじけ。三磧の一人藤原行成の子孫で書の家の世尊寺家のこと。室町時代末に廃絶。
○能書
読みは「のうじょ」。