【徒然草 現代語訳】第五十一段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

亀山殿の御池に大井川の水をまかせられむとて、大井の土民に仰せて、水車を造らせられけり。多くのあしを賜ひて、数日にいとなみ出だしてかけたりけるに、大方めぐらざりければ、とかくなほしけれども、遂にまはらで、いたづらに立てりけり。さて、宇治の里人を召してこしらへさせられければ、やすらかにゆひて参らせたりけるが、思ふやうにめぐりて、水を汲み入るることめでたかりけり。
萬にその道を知れる者は、やんごとなきものなり。

翻訳

亀山殿の御池に大井川の水をお引き入れになるとのことで、大井の村人たちにお命じになり、水車をお造りになったことがあった。ふんだんにお銭を下されたこともあり、わずか数日で完成し川に掛けたところ、一向に廻らない、あっちこっちを手直ししてもついに廻らず、空しく放置されることとなった。水と云えば宇治とのことで、今度は宇治の村人をお召しになってお造りになったところ、いとも容易く造って差し上げ、水車も思い通りに廻り、首尾よく水を汲み入れることが出来た。
万事その道の熟達者は、かけがえのない尊いものである。

註釈

○亀山殿
御嵯峨上皇の御所。嵯峨野にあった。


小学校で、専門という漢字を覚える際、「専門に口なし」と覚えさせられました。門をつい問と間違えてしまうからです。
今にして思えば、専門家(職人)というものは無駄口をたたかないものだという意味が籠められていたことが、よくよく解ります。


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