
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
御室に、いみじき児のありけるを、いかでさそひ出して遊ばむとたくむ法師どもありて、能ある遊び法師どもなどかたらひて、風流の破子やうのもの、ねむごろにいとなみ出でて、箱ふぜいの物にしたため入れて、双の岡の便よき所に埋みおきて、紅葉散らしかけなど、思ひよらぬさまして、御所へ参りて、児をそそのかし出でにけり。うれしと思ひて、ここかしこ遊びめぐりて、ありつる苔のむしろになみゐて、いたうこそ因じにたれ、あはれ、紅葉をたかむ人もがな、験あらむ僧達、いのりこころみられよなどいひしろひて、埋みつる木のもとに向きて、数珠おしすり、印ことごとしく結び出でなどしていらなくふるまひて、木の葉をかきのけたれど、つやつや物も見えず。所の違ひたるにやとて、掘らぬところもなく山をあされども、なかりけり。埋みけるを人の見おきて、御所へ参りたる間に盗めるなりけり。法師ども、ことのはなくて、聞きにくくいさかひ、腹立ちて帰りにけり。
あまりに興あらむとする事は、必ずあいなきものなり。
翻訳
これまた仁和寺に、それはそれは愛らしい稚児がいたのを、なんとかして誘い出し一緒に遊ぼうと画策していた坊さんたちがいた、芸達者な遊行僧を仲間に引き入れ、お洒落なお弁当箱風のものを手をかけて作り上げ、箱のようなものにきちんとしまい、双の丘のよさげな場所に埋めておき、その上から紅葉を散らしたりなどして誰にも勘づかれないようひと捻りを加えてから法親王の御所に戻り、まんまと稚児をおびき出した。やっとのことで誘い出せたうれしさで、あっちこっち浮かれ遊び廻って、さてととばかり最前に仕掛けをほどこした苔の絨毯のような処に並んで座り、あ~疲れた疲れた!この紅葉で焚き火をするような風流な方はおらんかな、霊力のある僧たちよ、試みに祈られよ、とかなんとか云いながら、宝の埋蔵された木の根元で向かい合いしかつめらしく数珠を擦り合わせ、大仰な仕草で印を結んだりしてもっともらしく振る舞い、紅葉葉を掻きのけてみたところ、もぬけの殻であった。あれれ、場所を間違えたかなと、山のそこかしこを掘りまくり掘らなかっとこはないくらいだったが、結局見付からなかった。なんのことはない埋めているとこをこっそり見られ、御所に参上した隙にちゃっかり盗まれてしまったのだった。坊さんたちは言葉をなくし、口々にえげつなく罵り合い、ぷんぷんになって帰っていったらしい。
過剰な演出は、必ず外すものと相場が決まっている。
註釈
○御室
おむろ。仁和寺の俗称。
○破子
わりご。仕切りのある弁当箱。
○双の丘
仁和寺の南側に連なる三つの丘。
○紅葉をたかむ人
林間煖酒焼紅葉
石上題詩掃緑苔
(白氏文集)
仁和寺黒歴史ネタ第三弾。
これは素直に笑えます。
ただ、僧侶たちが見目麗しい稚児を誘い出して、ほんとはどうするつもりだったのか、ひょっとして輪○??……、と妄想を逞しくすると笑いも凍りますけどね。
ここまで仁和寺ネタに詳しいのは、きっと内通者がいたんでしょうねぇ。