【徒然草 現代語訳】第十二段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

おなじ心ならむ人と、しめやかに物語して、をかしきことも、世のはかなきことも、うらなくいひなぐさまむこそ嬉しかるべきに、さる人あるまじければ、つゆたがはざらんと向ひゐたらむは、ひとりある心地やせむ。

たがひにいはん程のことをば、げにと聞くかひあるものから、いささかたがふ所もあらむ人こそ、我はさやは思ふなどあらそひにくみ、さるから、さぞともうち語らはば、つれづれなぐさまめと思へど、げには少しかこつかたも、われとひとしからざらむ人は、大方のよしなしごといはむ程こそあらめ、まめやかの心の友には、はるかにへだたる所のありぬべきぞわびしきや。

翻訳

心を同じうするような人と、しんみりと会話を交わし、お互いに興味を惹かれている事柄や、ひいては世の無常にいたるまでも、忌憚なく語り合えるひと時を持てたらこれぞ無上の喜びと云うものだが、生憎そういう人がいたためしはないので、些細なことでも相手に逆らわぬよう気を配りながら差し向かいでいるのは、所詮独りでいるのと大差ない。

ぜひ聞いて欲しいじっくりと話をしたいと互いに思うほどのことであれば、なるほどなるほどと聞く甲斐もあろうが、わずかでも意見を異にする人は、私はそうは思わんねなどと抗弁してはしまいに口喧嘩の様相を呈し、それでもその理屈でゆくとそういうことにもなろうがと話を進めてゆけば、それはそれで退屈しのぎにはなるだろうとは思うけれど、実のところ少しは不満に思っているようなことも、自分と違う考え方の人とは、他愛ない四方山話なら差し障りもないものの、心を赦した友が相手となると、ああやはりこの人とは解り合えないんだと感じてしまう、それがなんともやるせない。

註釈


文章に多少ぎくしゃくしたところがある分、一気呵成に書いたものならではの疾走感があり、読ませます。

独りが嫌なら一人でいるに越したことはありません。


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