【徒然草 現代語訳】第百七十九段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

入宋の沙門道眼上人、一切経を持来して、六波羅のあたり、やけ野といふ所に安置して、ことに首楞厳経を講じて、那蘭陀寺と號す。その聖申されしは、那蘭陀寺は、大門北むきなりと、江師の説とていひ傳へたれど、西域伝、法顕伝などにも見えず、更に所見なし。江師、は如何なる才覺にてか申されけむ、おぼつかなし。唐土の西明寺は、北むき勿論なりと申しき。

翻訳

留学僧として宋に渡られた道眼上人は、一切経を持ち帰ると、六波羅近辺の焼野という処に安置、中でも首楞厳経を講義してそこを那蘭陀寺と号した。その道眼上人が仰るには、「インドの那蘭陀寺は、大門が北向きであるというのは大江匡房卿の説と漏れ聞いておるが、西域伝、法顕伝にも記載はない。一体大江匡房卿は、何を根拠にそのようなことを仰られたのだろう、見当がつかない。少なくとも宋の西明寺の大門が北向きであるのは勿論なのだが」とのこと。

註釈

○道眼上人
どうげんしょうにん。詳細不明。

○首楞厳経 
しゅりょうごんきょう。禅宗の根本経典。

○號(号)す
読みは「こうす」。

○大門
寺の総門。通常は南向き。

○大江匡房
おおえのまさふさ。権大納言。当代超一流の知識人。


大江匡房は、紫式部等と中宮彰子に仕えた女流歌人赤染衛門の曾孫です。

追記

鎌倉の大仏も南向きですね。


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