【徒然草 現代語訳】第百三十五段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

資季大納言入道とかや聞えける人、具氏宰相中将に逢ひて、わぬしの問はれむほどのこと、何事なりとも答へ申さざらむやといはれければ、具氏、いかが侍らんむと申されけるを、さらばあらがひ給へといはれて、はかばかしきことは、かたはしもまねび知り侍らねば、尋ね申すまでもなし。何となきそぞろごとの中に、おぼつかなきことをこそ問ひ奉らめと申されけり。まして、ここもとのあさきことは、何事なりともあきらめ申さむといはれければ、近習の人々、女房なども、興あるあらがひなり。おなじくは、御前にてあらそはるべし。負けたらむ人は、供御をまうけらるべしとさだめて、御前にてめしあはせられたりけるに、具氏、をさなくより聞きならひ侍れど、その心しらぬこと侍り。『うまのきつ、りやうきつにのをか、なかくぼれいりぐれんどう』と申すことは、如何なる心にか侍らむと申されけるに、大納言入道はたとつまりて、これはそぞろごとなれば、いふにもたらずといはれけるを、もとより深き道は知り侍らず。そぞろごとをたづね奉らむとさだめ申しつと申されければ、大納言入道負になりて、所課いかめしくせられたりけるとぞ。

翻訳

資季の大納言入道とか申された方が、具氏の宰相中将に対面し、貴方のお訊ねになられるほどのことなら、なんなりとお答えいたそうと胸を張った、具氏がどうしたものかと躊躇されたため、資季入道は試しになんでも訊いてごらんなさいと畳みかけた、すると具氏は、小難しいことにつきましては小生不勉強ゆえとんと不案内でございますので、お訊ね申し上げたところで詮ないこと。どうということもないようなことの中で日頃より気に掛かっておりますことをお訊きしようかと存じますと仰った。なんのなんの左様な些細なことならばましてズバリお答えいたしますぞ、と入道が応えたものだから、側仕えの者たちや女房どもが身をのりだし、面白そうじゃございませんか。どうせならお上の御前にて一戦交えられてはいかがでしょう。負けた方はご馳走せねばなりませんよ!と勝手決めして御前で勝敗を決するよう取りはからった。そこでおもむろに具氏が、子供の時分より耳にしております一節で、今もって意味不明なものがございます。『うまのきつ、りやうきつにのをか、なかくぼれいりぐれんどう』あの言葉の意味するところは一体全体なんなのでございましょう、と訊いたところ、大納言入道はぐっと返答に詰まった挙げ句、苦し紛れに、こんな詰まらぬことには答えるに及ばん、と仰ったのを受け具氏が、小生は専門知識は持ち合わせませんとあらかじめ申し上げました。ですからくだらないことをお訊きいたしますとお約束いたしたではございませんか、と云ったので、大納言入道の負けとなり、ご馳走の大盤振る舞いとなったそうだ。

註釈

○資季大納言入道
藤原資季(すけすえ)。権大納言。古典に精通したうるさ方。ちなみに資季は具氏のふた周り年長。

○具氏宰相中将
源具氏(ともうじ)。近衛右中将。「増鏡」にも具氏が琵琶を弾く挿話あり。

○御前
この段の御前は亀山天皇の御前。


今もって謎を残す段のひとつ。
『むまのきつ云々』は、かねてより様々な解釈がなされてきましたが、他愛ない戯れ歌だと思います。

追記

知ったかぶりしていいことありませんね。


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