
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
揚名介に限らず、揚名目といふものもあり。政治要略にあり。
翻訳
名目だけの任官については、それなりに知られている揚名介の他に、揚名目というものがある。『政事要略』に記されている。
註釈
○揚名介
読みは「ようめいのすけ」。国司は「守(かみ)」「介(すけ)」「掾(じょう)」「目(さかん)」の四等官制度。介以下は実務を伴わない名目のみの官名。源氏物語の「夕顔」の巻に「揚名介なる人の家」と出てくることで有名。
○揚名目
読みは「ようめいのさかん」。
○政事要略
11世紀初頭に完成した政治に関する書物。惟宗允亮(これむねのまさすけ)著。
前段に続き、時代考証の段となります。
兼好法師はいい加減なくせにいい加減なことが大嫌いという(困った)性分なんですよ。
この「揚名介」については、源氏物語最大の謎であると藤原定家も書き記しています。
なんてことはない、今はなき官職名だったんですね。定家ですら読み取れなかったのは、律令制がすっかり有名無実のもとなっていたのに併せ、「政事要略」が小野宮家(藤原実資家)相伝の書物だったため、目にする機会がなかったのでしょう。兼好法師が実際に見たかどうか、見たとしてどういう経緯で見ることが出来たかについては謎です。
同時に、源氏物語が、書かれて200年経ってすでに古典となっていたことが判ります。今の感覚で云うと、江戸時代末期にあたる200年前の文芸、例えば河竹黙阿弥の「三人吉三」や「加賀見山」の世界を味わっているのに近いものがありますね。