
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
今日はそのことをなさむと思へど、あらぬいそぎ先づ出で來てまぎれくらし、待つ人はさはりありて、頼めぬ人は來り、たのみたる方のことはたがひて、思ひよらぬ道ばかりはかなひぬ。わづらはしかりつることはことなくて、やすかるべきことは、いと心ぐるし。日々に過ぎ行くさま、かねて思ひつるには似ず。一年の中もかく如し。一生間も、またしかなり。
かねてのあらまし、皆たがひ行くかと思ふに、おのづからたがはぬこともあれば、いよいよ物は定めがたし。不定と心得ぬるのみ、誠にてたがはず。
翻訳
今日こそその用事を片付けようと思っていても、そういう時に限って予期せぬ急用が出来してそれにかまけているうちに一日が過ぎ、待ち人はドタキャン、一方であてにもしていなかった人がふとやって来たり、期待はずれに終わったことがあったかと思えば、思ってもいなかった事ばかり叶ったりする。面倒くさいなぁとつい尻込みしていた事がすらすらと捗り、楽勝!とたかをくくっていた事が、意外にも足を引っ張ったりもする。一日を振り返ってみても、思惑通りに進んだためしはまずない。一年の経過もこれと同様。引いては一生も同じことだ。
入念に立てられた計画が、どれもこれも水泡に帰すかと思うと、たまにトントン拍子に事が運ぶこともある、いよいよもって物事は定めがたいもの。煎じ詰めればこの世は曖昧模糊、何ひとつ定まったものはないと心得ておくのだけが、真理でもあり唯一の正解だ。
註釈
リスクヘッジだのリスクマネジメントだの、利いた風な口をきく輩をよく見掛けますが、おあいにく様、兼好法師が700年も前にもっとずっと高いレベルで指摘しておりますよ。
追記
院政を始められたことで知られる白河天皇は、思い通りにならない三つ(天下三不如意)として、加茂河の水、双六の賽、山法師を挙げられましたが、双六の賽つまり賭事が思い通りになることくらい鼻白むことはないでしょうね。ちなみに、白河天皇はバイセクシャルとしても有名です。