【徒然草 現代語訳】第百四十五段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

御随身秦重躬、北面の下野入道信願を、落馬の相ある人なり。よくよくつつしみ給へといひけるを、いと真しからず思ひけるに、信願馬より落ちて死ににけり。道に長じぬる一言、神のごとしと人思へり。

さて、いかなる相ぞと人の問ひければ、きはめて桃尻にして、沛艾の馬を好みしかば、この相をおほせ侍りき。いつかは申し誤りたるとぞいひける。

翻訳

御随身の秦重躬が、北面の武士下野入道信願に、落馬の相がおありです、重々ご用心召されよ、と云ったのを、一人として真に受けなかったが、果たして信願は落馬して死んでしまった。道を極めた者の言葉は、神レベルに重いと誰もが思った。

そこで、どんな人相だったのかと人が問うたところ、乗馬に向かない甚だしい桃尻に加え、暴れ馬に好んで乗っていたので、落馬の人相と充てたのです。私がいつ誤りを申しましたか?と胸を張った。

註釈

○御随身
読みは「みずいしん」。上皇、大臣クラスの外出のお供を務める近衛武官。

○秦重躬
はたのしげみ。後宇多院の随身。

○下野入道信願
しもつけのにゅうどうしんがん。詳細不明。

○北面の武士
上皇、法皇の御所を警備する武士。

○沛艾の馬
はいがいのうま。荒馬のこと。


私、社会人になって間もなくの頃、新宿の辻占に「強烈な孤独の相がある」と云われたことがあります。

追記

橋本治さんのデビュー作「桃尻娘」は、この段から採ったタイトルだったんでしょうね。


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