【徒然草 現代語訳】第百四十四段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

栂尾の上人、道を過ぎ給ひけるに、河にして馬あらふおのこ、あし、あしといひければ、上人立ちどまりて、あなたふとや。宿執開発の人かな。阿字々々と唱ふるぞや。如何なる人の御馬ぞ、あまりにたふとく覚ゆるはと、尋ね給ひければ、府生殿の御馬に候と答へけり。こはめでたきことかな。阿字本不生にこそあなれ。うれしき結縁をもしつるかなとて、感涙をのごはれけるとぞ。

翻訳

栂尾の明恵上人が、道を通り過ぎようとなさっておられた際、川で馬を洗っていた男が、あし、あし(足、足)と云ったのが聞こえたのではたと立ち止まり、なんと尊い!前世の功徳善行が今世でみごとに現れた人よなぁ。阿字阿字と唱えておられる。時にどちら様のお馬でしょう?尊さ余ってつい知りたくなりました、とお尋ねになられたところ、府生殿のお馬でございます、とのことであった。上人はさらに感激し、これはこれはまたなんとめでたい!よりにもよって阿字本不生とはなぁ!うれしくもありがたい仏縁を結ばせていただきました、そう云って流れる涙をぬぐわれたということです。

註釈

○栂尾の上人
明恵(みょうえ)。華厳宗中興の祖。「夢記」はあまりにも有名。

○あし、あし
足、足。

○阿字々々
阿の字は梵語梵字の根源。

○阿字本不生
阿の字、つまり宇宙は不滅ということ。


「徒然草」で五指に入るほど私の偏愛する段です。
もし未読でしたら、河合隼雄さんの「明恵 夢を生きる」はぜひご一読くださいね。

追記

明恵上人が好き過ぎて、一度夢に出てきてくださったことあがあるんですよ!これはちょっと自慢です。


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