
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
いにしへのひじりの御世の政をもわすれ、民のうれへ、国のそこなはるるをも知らず、よろづにきよらをつくしていみじと思ひ、所せきさましたる人こそ、うたて、思ふところなく見ゆれ。
衣冠より馬、車にいたるまで、有るにしたがひて用ゐよ。美麗をもとむる事なかれ、とぞ九条殿の遺誡にも侍る。順徳院の、禁中の事ども書かせ給へるにも、おほやけの奉り物は、おろそかなるをもてよしとす、とこそ侍れ。
翻訳
古きよき聖帝のご親政をも忘れ去り、民草の愁い、国が衰滅の一途を辿っていることすら知らずに、万事に豪奢を極め、またそれこそが最善であると思い上がって、威風辺りを払うがごとく振る舞っている人こそ、お気の毒様、頭ン中は空っぽである。
衣冠はむろんのこと、馬、車にいたるまで、あるもので間に合わせよ。ゆめゆめ華美を求めてはならぬ、と九条殿も書き遺しておられる。順徳院が宮中にまつわる諸々をお書かせになられた書物にも、天子のお召し物は簡素をもってよしとする、とある。
註釈
九条殿とは藤原師輔。理想の御代と賞される天暦の治の中心人物ですが、皮肉なことに、息子の伊尹は無類のゴージャス志向でした。
虎の威を借る狐感あり。
文句は決して相手に届かないから書いてて愉しい。
そのことにまだ気付いていない、ごまめの歯ぎしり感ぷんぷんの青い兼好に好感が持てます。