
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
為兼大納言入道めしとられて、武士どもうち圍みて、六波羅へゐて行きければ、資朝卿、一条わたりにてこれを見て、あな羨まし。世にあらむ思ひ出、かくこそあらまほしけれとぞいはれける。。
翻訳
為兼の大納言入道が召し捕られ、武士たちが取り囲んで、六波羅へ連行した際、資朝卿が一条の辺りでそれを見て、「ああ羨ましいねぇ。この世に生きた思い出としてあんなふうにありたいもんだ」、と仰ったそうだ。
註釈
○為兼大納言入道
京極為兼。定家の曾孫。歌道京極派の中心人物であり、持明院統派の公卿として暗躍し、二度の捕縛歴あり。法名静覚。歌道界においては兼好の師二条為世と対立関係にあった。
前段に続き日野資朝ネタ。
師匠と敵対関係にあった京極為兼にまつわる挿話ゆえ、意識的に淡々と記述されているあたりが、かえって混沌とした時代変わりの世相の一端を、鮮やかに切り取り伝えています。
資朝も後年捕らえられ流罪となりました。言霊返し、とでも云えばいいのでしょうか。念願が叶った資朝が、あの時自ら発した痛烈な皮肉を悔やんだか否かは、仏さまのみぞ知るですね。
追記
自分の言葉には責任持ちましょう。