【徒然草 現代語訳】第十五段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

いづくにもあれ、しばし旅だちたるこそ、めさむる心地すれ。

そのわたり、ここかしこ見ありき、ゐなかびたる所、山里などは、いとめなれぬ事のみぞ多かる。都へたよりもとめて文やる、その事かの事、便宜に忘るな、など言ひやるこそをかしけれ。さやうの所にてこそ、よろづに心づかひせらるれ。持てる調度まで、よきはよく、能ある人、かたちよき人も、常よりはをかしとこそ見ゆれ。

寺、社などに忍びてこもりたるもをかし。

翻訳

何処へでもよい、しばらくの間旅に出ていると、随所折々に目の覚める心地がする。

泊まった先の近場を、あちこち逍遙し、いかにもな田舎っぽい処や山里などに足を伸ばすと、見慣れないものだらけである。都へこんな手紙を、その事やあの事、呉々もよろしく頼む、などと書いて送るのも心が弾む。そういった場に身を置くことで、改めてあらゆることに気遣うようになる。持ち歩いている日常使いの道具まで、いいものはよりいっそうよく見え、管弦の心得のある者、見目麗しい人も、いつも以上に耀きを増す。

寺社に隠れるように籠るのもいいものだ。

註釈

○便宜
この時代は「びんぎ」と読みます。


「枕草子」風の段。
都会人の孤独の先駆けですね。


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