
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
或人久我縄手を通りけるに、小袖に大口きたる人、木造りの地蔵を田の中の水におしひたして、ねむごろに洗いけり。心えがたく見るほどに、狩衣の男二人三人出で來て、ここにおはしましけりとて、この人を具していにけり。久我内大臣殿にてぞおはしける。
尋常におはしましける時は、神妙にやんごとなき人にておはしけり。
翻訳
或る人が久我畷を通っていると、小袖に大口袴といういでたちの人が、木彫りの地蔵菩薩を田圃の水に浸して心をこめて洗っていた。不審に思いつつ静観しているうちに、狩衣姿の男たちが二三人ふいに現れ、「おお!こんなところにおられましたかっっ!」と叫んで、その人を連れ去ってしまった。誰あろうそのお方こそ、久我内大臣通基公であられた。
正気を保っておられた頃は、それはそれは殊勝でご立派な方でいらっしゃったという。
註釈
○大口
読みは「おおくち」。小袖、大口ともに当時の男性貴族の肌着。
○二三人
読みは「ふたりみたり」。
○久我内大臣殿
源通基(みちもと)。次段百九十六段にも挿話あり。
「徒然草」でも異彩を放つ段です。
淡々と書かれているぶん、これは心底怖い。
ちなみに兼好は、久我家の分家筋にあたる堀川家に出仕していました。
追記
ひさうちみちおさんに是非とも描いていただきたい話です。