【徒然草 現代語訳】第二百三段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

勅勘の所に靫かくる作法、今は絶えて知れる人なし。主上の御悩、大方世の中の騒がしき時は、五條の天神に靫をかけらる。鞍馬にゆぎの明神といふも、靫かけられたりける神なり。看督長の負ひたる靫を、その家にかけられぬれば、人出で入らず。この事絶えて後、今の世には、封をつくることになりにけり。

翻訳

お上からお咎めを受けた者の家に靫を掛ける作法については、今やすっかり廃れてしまい知る人とていない。お上のご病気の折や、往々にして疫病蔓延により物騒な世の中になった際には、五条の天神さまに靫をお掛けになるのが習わしだ。鞍馬にある靫の明神も、靫をお掛けになった神である。看督長の背負った靫を、勅堪を蒙った者の家にお掛けになれば、誰も出入りしなくなる。この作法が絶えてしまい、その後当節に至って、家に封を附けることになったのである。

註釈

○靫
読みは「ゆぎ」。矢を入れる筒。古墳時代からある武具のひとつ。

○主上
読みは「しゅじょう」もしくは「しゅしょう」。天皇。

○看督長
読みは「かどのおさ」。検非違使庁で逮捕を行う下級役人。


今こそ五条の天神さまに靫をお掛けしないといかんのではっ!……って、すでに掛けてたらご免なさい。

追記

靫は「うつぼ(=空穂)」とも読み、食虫植物のウツボカズラはここから名前がとられています。


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