【徒然草 現代語訳】第四十段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

因幡國に、何の入道とかやいふ者のむすめ、かたちよしと聞きて、人あまたいひわたりけれども、このむすめ、ただ栗をのみ食ひて、更によねのたぐひをくはざりければ、かかることやうのもの、人に見ゆべきにあらずとて、親許さざりけり。

翻訳

因幡の国の某とかいう入道の娘が、見目麗しいと聞きつけて、男たちが引きも切らずに云い寄ったけれど、この娘、ただ栗ばかりを喰い米の類いをまったく口にしなかったものだから、かような変わり者をとうてい嫁に差し上げるわけにはいきません、と親は決して許可しなかったということだ。

註釈

○ことやう
異様。


ネタ話の枠を越えて、謎めいた読後感を残す段です。

この段を奇譚ととるか、娘を溺愛する親バカ話ととるかは意見が分かれるところでしょう。
奇譚ととれば、澁澤龍彦あたりに換骨奪胎してもらったら上品で軽妙な短編に仕上がりそうですし、親バカ話ととるなら、近親相姦的雰囲気とスカトロジーの香り(栗といえば放屁がつきものですからね)を漂わせて河野多惠子に格調高い中編をものしていただきたいところです。

この段を解く鍵は、何の入道とかやいふ者、の「や」だと思います。
わざわざ「や」と強調したのには、理由があるんですよ。モデルははっきりしているんです。でも実名を書くのは憚られる。わかるでしょう?あの人ですよ、とにおわせているわけです。

時間が赦せば、いつかこのあたりの謎も解いてみたいと(ずっと)思っています。


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