【徒然草 現代語訳】第四十六段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

柳原の邊に、強盗法印と號する僧ありけり。たびたび強盗にあひたるゆゑに、この名をつけにけるとぞ。

翻訳

柳原の辺りに強盗法印と名乗る坊主がいたらしい。何度となく強盗に遭ったため、こんな名前をつけたんだとか。

註釈

○強盗
この時代の読みは「ごうどう」。


前段に続き、ニックネームシリーズ第二弾。
シリーズものですが、主人公のキャラは真逆。
こちらのお坊さんは、自ら強盗法印と名乗る剛毅さを持ち合わせています。人からそう呼ばれることに、むしろ快感すら感じていた節もあります。

かつて法印大和尚位(読みは、ほういんだいかしょうい。ほういんだいおしょうい、ではありません)と云えば大僧正、僧正、権僧正をさす僧侶の最高位でしたが、中世以降は仏師、絵師、医師、果ては連歌師まで、いささかの揶揄をこめて法印なんて呼ばれるように(名乗るように)なりましたので、こちらの法印は必ずしもまともに僧籍にあった者というわけではなさそうです。

しかも、度々強盗に遭ったわけですから、物持ちだったんですね。わざわざ僧侶の最高位をくっつけて箔付けするふてぶてしさ、裏で金貸しなんかやってた破落戸(ごろつき)に近いような男だったんじゃないでしょうか。ヤクザの抗争よろしく、同業者から狙われた可能性も充分あるかと思います。

わざわざ並べて坊主の渾名ネタを載せているのにはきっと意味があり、そう読むと、前段の怒りっぽい良覚僧正はさすがに上流の出自だけあって、可愛げがありますね。


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