
神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。
原文
蟻のごとくにあつまりて、東西にいそぎ南北にわしる。高きあり、賤しきあり。老いたるあり、若きあり。行く所あり、帰る家あり。夕にいねて、朝に起く。いとなむところ何事ぞや。生を貪り利を求めてやむ時なし。
身を養ひて何事をか待つ。期する所、ただ老と死とにあり。その来ること速かにして、念々の間にとどまらず、これを待つあひだ、何のたのしびかあらむ。まどへるものはこれをおそれず。名利におぼれて先途の近きことを顧みねばなり。愚かなる人は、またこれを悲しぶ。常住ならむことを思ひて、変化の理を知らねばなり。
翻訳
蟻のように集まり群れをなしては、東へ西へと大慌てで駆け抜け、南へ北へと泡喰って走ってゆく人間ども。身分の高い者もいれば、賎しい者もいる。年寄りも若者もいる。皆行くところがあり、帰る家がある。夜がくれば寝て、朝になれば起きる。何を目指して何がしたくて生きているのか。長生きしたいと乞い願い、利益を追求し続け、飽きることを知らない。
健康にひたすら心を砕いて養生し、その先どうなりたいのか。詰まるところは老いと死が待ち受けているだけなのに。老いも死も疾風のようにやってきて、一瞬たりとも留まってはいない。これを待っている間に、どんな楽しみがあると云うのだろう。迷走し続ける者たちは、これらに一瞥もくれず恐れない。名誉ばかりを重んじ利益だけを追い求める者は目がくらみ、老い先の短いことを知る由もない。愚かなる者たちは、死が近いのを悲しんだりもする。この世は不変であるとずっと長らえられるものと思い込み、万物は刻一刻とその姿を変えているという道理に気付いていないからである。
註釈
○わしる
走る。
○期する
読みは「ごする」。
○先途
読みは「せんど」。
三回読んでください。
三回読んでもピンとこない方は、この先もうお読みにならずとも結構です。