【徒然草 現代語訳】第八十四段


神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

法顕三蔵の、天竺に渡りて、故郷の扇を見ては悲しび、病に臥しては漢の食を願い給ひけることを聞きて、さばかりの人の、無下にこそ心よわき気色を、人の國にて見え給ひけれと人のいひしに、弘融僧都、優に情ありける三蔵かなといひたりしこそ、法師のやうにもあらず心にくく覚えしか。

翻訳

法顕三蔵がインドに渡り、ふるさとの団扇を見ては悲しみに沈み、病に臥せった際には故国の料理が食べたいと乞い願われたという逸話を聞いて、あれほどのお方が、無防備にも心のもろさを、あろうことか異国にてお見せになったとは、と誰ぞやが云った際に、弘融僧都が、実にいい話だ、やはり三蔵は情が深いねぇ、と感心しきりだったのには、坊主らしくなく人柄が滲み出てるなぁと思わず唸ってしまったよ。

註釈

○法顕三蔵
ほっけんさんぞう。四世紀半ばから五世紀にかけての東晋の高僧。

○弘融僧都
こうゆうそうづ。以前にもご紹介した兼好の若き友人にして仁和寺の僧。


三蔵と云えば「西遊記」の三蔵法師ですが、三蔵法師というのは銀行頭取とか大学教授とかと同じ一般名詞で、経蔵、律蔵、論蔵の三蔵に秀でた僧侶が三蔵法師と呼ばれます。ご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、「西遊記」の三蔵法師の戒名は玄奘(げんじょう)です。念の為。

いつの時代にも、人のやることなすことにいちいちケチつける輩がおるんですなー。

追記

兼好は友人に恵まれていましたね。


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